山本博文の北ルソン・コーヒー探訪記④

サヨーテとコーヒーのおいしい関係

 おお、すごい量の実が付いてる。いやいや、これが通常かな。なんか安心した。と思わせてくれるコーヒー産地でした。

 僕が住んでいる場所からバスで2時間弱。標高1600m。この国では結構高い場所に位置するコーヒー農園へいってきました。カリキンという場所です。カリキンが位置する地域は、フィリピン国内でも有数のコーヒー生産地として有名で、良質な豆を生産しています。

 コーヒーの木が元気よく育つためには、寒暖の差というものがとても大切になります。亜熱帯に位置するフィリピンでは、低地はとってもムシムシとした暑さがありますが、高地に行くと涼しく、昼間でも18〜24℃という実に夏嫌いのボクにとって過ごしやすい環境にあります。夜から早朝にかけては息が白くなるぐらい寒くなります。カリキンの場合、こういった環境だけでなく、土壌が他の場所よりも比較的肥沃で、コーヒーの木と相性の良い他の植物と一緒に植えられている事も良質なコーヒーを生産できる大切な要因です。

 また、この地域では、サヨーテとよばれる、ウリ科の植物がコーヒーと一緒に栽培されており、小農家の皆さんの大切な収入源となっています。そして、このサヨーテとコーヒーの栽培方法が、他の国では余り見られないユニークな方法でおこなわれています。通常、コーヒーのプランテーションは土地の大小に関わらず、一定の間隔(2m×2mとか4m×4m)でその区画に植えられて、その間に背が高い豆科の植物を植えて一定のシェードをコーヒーの木に与えます。もちろん、ブラジルのように環境によっては、シェードを必要としないこともあります。

 ここカリキンでは、このサヨーテが作り出すシェードの下でコーヒーが栽培されています。写真を見ていただけるとよくわかると思います。

 斜面一面に広がっている緑色の植物がサヨーテです。ぶどうのように蔓を伸ばして生長していく植物なので、人工的に作ったワイヤーが地上から1.5m~2mの高さで斜面一面に張り巡らされており、そのワイヤーにグルグルと巻き付きながら成長します。つまり、コーヒーはその下で成長します。なかなかユニークでしょ。

 すべての土地でサヨーテが栽培できる訳ではないので、背が高い豆科の植物と一緒に栽培している農家さんもいらっしゃいました。ちなみに、この区画は、100年以上も前のコーヒーの木を使用しているようです。それが本当なら、すごいですよね。一応定期的にカットバック(また説明しますね)とよばれる、剪定をおこなって、若返りをはかっているようです。100歳以上のコーヒーの品種はティピカとよばれるものです。高品質のコーヒーを作り出す品種で、アフリカのエチオピア由来です。品種については、また違う機会に。

 今回はカリキンで一番広い土地を持っている農家さんへ訪問。土地の広さは約10ヘクタール(1ヘクタール=100㎡)丁度早めに結実したコーヒーの実を精選している最中でした。

 コーヒーの実を、通常ボクたちが知っているあの茶色い液体にするにはものすごく大変な行程を経なければいけません(実際に自分でやってみましたが、すごく大変でした)。収穫された真っ赤な実の果肉部分を除去して、パーチメントと呼ばれる状態にして、パーチメントの周りに付いているヌメヌメをとるために、水の中につけて24時間ぐらい待ちます。その後水でもう一度しっかりと洗い、パーチメントを水分値12パーセントぐらいまで乾燥させます(1週間以上)。乾燥が終わったら、一度パーチメントを倉庫で落ち着かせて(キュアリング)からパーチメントを外して、出てきた豆がコーヒー豆です。しかし、欠点豆が含まれているので、大量にある粒から欠点豆を探し出して、ある程度均一に仕上げます。そして、ようやく焙煎です。焙煎が終わると、ようやくボクらが知っている茶色いコーヒー豆が出来ます。焙煎豆を粉砕して、お湯を注いでカップに抽出したら出来上がり。大変なんです。

 

 さて、今回訪問した農家さんは、今後も徐々にコーヒー栽培を拡大していく予定のようです。まだまだアラビカ種の生産量が少ないこの国は、現在国を挙げてアラビカ種の植林をたくさん行っています。10年後、20年後にはきっと十分な量が収穫できるはずです。そして、品質もきっと満足のいくものになっているはずです。その日を見据えて頑張ってらっしゃる農家の皆さんに、ボクは今何が出来るか。低きに流れようとする気持ちをグッとこらえて、月々日々に勉強です。