フィリピンはコーヒー産地としては無名ですが、

実はコーヒーの歴史は古く、

スペイン植民地時代にコーヒーが伝えられ、

フィリピンの人々はこよなくコーヒーを愛しています。

 

スペイン植民地時代に伝えられたコーヒーは

「バラコ」と呼ばれていてマニラの南のバタンガスを中心に栽培されてきました。

バラコは、標高の低いところでも育つ大きな葉っぱのリベリカという品種で、

世界的にはたいへん珍しい品種ですが、

酸味や甘みがあまり感じられず、苦みの強いちょっと泥臭く感じられるコーヒーです。

にが~~い「バラコ」にたっぷりお砂糖を入れて飲むのが、

長いことフィリピンの人にとってのコーヒーの飲み方でした。

そして、それもいつの間にか、

便利なインスタントコーヒーの小分けパックに取って代わられていきます。

 

ところが、ルソン島の北部の「コーディリエラ地方」と呼ばれる山岳地方には

スペイン人が伝えたアラビカ・コーヒーがひっそりと栽培されていました。

ほとんどがティピカ種で、山岳地方に住む先住民族の人たたちの裏庭には、

必ず数本のコーヒーの木がありました。

先住民の人々は収獲した赤いコーヒーチェリーを天日干しし、

杵と臼で果皮と殻をむき、

素焼きのポットに入れて囲炉裏の火で時間をかけて焙煎していました。

先住民族のコミュニティにとって

コーヒーは大事な客人をもてなすときになくてはならないものだったのです。

ときにはコーヒー豆はお金の代わりとなり、

米や塩や砂糖との物々交換にも使われてきたといいます。

 

とくに、「スペインの道(Spaniard)」と呼ばれる、

スペイン人たちが金鉱を探して通ったルートに沿いのコミュニティでは、

いまでも「センチュリー・ツリー」

と呼ばれるとても古いコーヒーの木が残っています。

 

 

そのコーディリエラ山岳地方で細々と栽培されてきたアラビカ・コーヒーが

いま、にわかに注目を集めています。

 

コーディリエラ山岳地方では、

かつて、自給自足に近い棚田での米作りを中心とした素朴な暮らしが営まれていました。

ところが、近年、山奥の先住民族の暮らしも

お金な必要な暮らしに変わりつつあります。

森林を切り開き、あるいは焼き払って、販売用の野菜畑に転換する人が

たいへんな勢いで増えています。

お金を手に入れるのと引き換えに、

森は失われ、土砂崩落や土壌侵食、水不足といった環境問題が

あちこちのコミュニティで起きています。

 

アラビカ・コーヒーが成長するのには、日陰をつくるシェイドツリーが必要で、

栽培のために森を全部切り開く必要がありません。

標高700メートル以上に植えるのが適しているといううアラビカ・コーヒーは

山岳地方の山奥の村の急峻な斜面でも栽培することができます。

  

森を壊さず、収入源にもなるアラビカ・コーヒーを換金作物として栽培して、

環境保全と先住民族の暮らしの向上に役立てようと、

政府の環境資源省、農業省、通商産業省、地方自治体、

地元の国立大学農学部、NGOなどが、

こぞってコーヒー栽培を推進し、苗木の配布や技術指導を始めました。

  

商業目的でのコーヒーの栽培が始まったのは2005年くらいからですが、

収獲されたコーヒー豆が、意外においしいという評判が広がり、

また、フィリピン産のアラビカ・コーヒーが珍しいことから

高値で取引され始めたこともあり、

コーヒー産地はどんどん拡大しています。

 

コーディリエラ地方は、まだまだ新しい産地であり、

コーヒー栽培は試行錯誤を繰り返しながら行われています。

また、収穫後の加工方法についての知識もいきわたっておらず、

コーヒー栽培農家は加工に必要な機材も持っていません。

産地にはコーヒーの品質についての知識のある人、

香味を評価できる人もほとんどいません。

 

昨今の世界的なコーヒー・ブームに乗り、

欧米のコーヒーショップでコーヒーの奥深い世界に魅せられたフィリピン人が

マニラに次々とおしゃれなコーヒーショップをオープンし、

ようやくフィリピンでも本格的なコーヒーが飲めるようになってきました。

オーストラリアやアメリカ、そして日本のコーヒーショップも、

フィリピンへのコーヒーショップの進出を始めています。

フィリピン国産のコーヒーを提供したいというコーヒーショップ・オーナーが

コーディリエラ山岳地方においしいコーヒー探しの旅に訪れるようになりました。

 

まだまだ発展途上のフィリピン・コーヒーですが、

これから収穫量がどんどん上がっていき、

またコーヒー農家の栽培や収穫後の精製技術が向上し、

そして品質に関する知識が広まっていけば、

世界のコーヒー市場に打って出ていくだけのポテンシャルがあります。

そして、それはコーディリエラ地方の環境保全と 

先住民族の暮らしの向上につながります。

 

 

コーディリエラ山岳地方の中心の町、バギオ市に拠点をもつ環境NGO

「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」は、

先住民族コミュニティにおけるコーヒーのアグロフォレストリー(森林農法)事業を

2006年に開始しました。

現在では多くの事業地で収穫が始まり、

CGNでは、収穫後の品質向上のための技術指導や、マーケットにつなげるための組織化にも

コーヒー関連の事業の幅を広げています。

また、栽培したコーヒーが先住民族の収入につながるように

フェアトレードによる輸出も行っています。

 

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このサイトでは、CGNのコーヒー事業地での活動を中心に、

知られざるコーディリエラ山岳地方の

アラビカ・コーヒー生産地と生産者の紹介をしています。

 

「KAPI TAKO」は、コーディリエラ地方の先住民族のひとつカンカナイ族の言葉で

 「Let's Have Coffee=コーヒーを飲みましょう」という意味です。

どうぞ、先住民族の人々が心を込め、手をかけて生産したコーヒーをお楽しみください!